相手が裏垢を持っていると知ったのは、付き合って3ヶ月が過ぎたころだった。
彼がお手洗いに行くためにその場を離れた瞬間、テーブルに置かれたままのスマホが点灯した。通知のポップアップだったと思う。でも私の目が釘付けになったのは通知の内容じゃなくて、画面右上のInstagramのアイコンだった。アカウントIDが、私が知っている彼のものとはまったく違う文字列になっていた。
(あれ、これって…)
手がわずかに震えて、口の中がからからになった。「気のせいかな」と自分に言い聞かせたけど、脚が正直で、テーブルの下でかすかに揺れていた。あの感覚は、今でもわりと鮮明に思い出せる。
裏垢の存在に気づいた夜のこと
あの夜に感じた嫌な予感の正体
彼が戻ってきて会話が再開したけど、正直何も頭に入ってこなかった。笑顔を作りながら、頭の中ではさっきのIDをぐるぐると反芻していた。
裏垢という言葉自体は知っていた。愚痴垢とか趣味垢とかで使っている人がいることも知っていたし、わざわざ悪いものだとも思っていなかった。でもその瞬間は、知識として知っていることと、目の前で現実として突きつけられることが、全然別物だとわかった。
あの嫌な感覚の正体は、裏切られた怒りというよりも「自分だけが知らない空間がある」という孤独感に近かった。好きな人の世界の一部が自分には閉じている。それがじわじわと効いてくる。
その夜、彼が帰った後にひとりで天井を見つめながら、もう片方の自分が「聞くべきだったかな…」とずっとつぶやいていた。(聞いて変な空気になるのが怖かったんだよな。結局。)
裏垢を持つ理由はひとつじゃない
誤解を招かないようにしておくと、裏垢を持っていること自体がすぐにアウトというわけではない。
職場の人間関係とは切り離したい趣味専用アカウント、ストレス発散のための愚痴垢、同人活動や推し活のための別垢。こういった裏垢は普通に存在するし、そこに恋愛的な後ろめたさがないケースも多い。
問題になるのは、恋人に対してその存在を意図的に隠しているとき。裏垢の中身そのものより、隠す必要がある何かがそこにあるかどうかが問題の核になる。
知り合いの話だと、相手の趣味垢を後から知った際に「なんで言ってくれなかったの」と聞いたら「別に聞かれなかったから」と返されたらしい。その返答が冷たくて、むしろそっちの方がショックだったって言っていた。隠す理由の有無より、隠すことへの感覚のズレが問題になることも多かったりする。
裏垢恋愛で実際に起きた危険なこと
二股・浮気の隠れ蓑として機能しやすい理由
正直言って、裏垢が恋愛トラブルに絡む場面で一番多いのはこれだと思う。実体験と周囲から聞いた話を合わせた上での確信として言っている。
なぜ二股や浮気の隠れ場所になりやすいか。シンプルに、バレにくいから。
メインアカウントでは誠実な恋人として振る舞いながら、裏垢では別の誰かと連絡を取り合う。共通の知人もフォロワーも存在しないし、写真に映り込んでも「この人誰」と調べる手がかりすらない。SNS上では完全に別人格として動ける環境が、裏垢には最初から備わっている。
私の友人の話をすると、付き合っていた男性が実は彼女持ちで、友人には独身だと言っていた。それが発覚したのは、本物の彼女がたまたま友人とのやり取りのスクリーンショットを見つけたから。その画像が転々と回って、最終的に友人の元に届いた。
まさかそんなことが、と思うかもしれないけど、これは別に特殊な話じゃない。SNSの時代、情報は思わぬルートで繋がる。裏垢で隠しているつもりでも、バレるときは本当に一瞬でバレる。
もうひとつ言うと、二股をしている側が「アカウントが分かれているから安全」という感覚でいることが多い。その安心感は根拠がなくて、実際にはどこかで必ず繋がりが出てくる。それがわかっていないまま複数の人間を同時に相手にしているのが、裏垢を使った二股の実態に近い。
個人情報が意図せず流れるリスク
裏垢相手の恋愛で見落とされがちな危険が、もうひとつある。
相手が裏垢コミュニティの中で、自分との会話や写真を共有している可能性だ。本人にとっては「愚痴を吐いているだけ」のつもりかもしれない。でもそれがスクリーンショットされてさらに広がれば、名前は伏せていても場所や外見でほぼ特定できるような情報が、自分の知らない人たちの間で回っていることになる。
実際に知っているケースでは、裏垢で出会った相手と交際していた人が別れた後、自分の顔写真が複数のアカウントに流れていたことを知った。相手がどんな意図で共有したかは不明だけど、本人に無断で写真が使われていた事実は変わらない。
こういうリスクは、好意が先行しているときほど想像力が鈍る。付き合う前には考えもしないことが、後になって突然現れてくる。特に出会いがSNSの場合、相手の実態がわからないまま深入りするスピードが速くなりやすい分、この問題は起きやすいと思っている。
精神的な消耗のループに引き込まれる
裏垢の存在を知ってから続ける恋愛が、じわじわと消耗戦になることがある。
この投稿は誰に向けて書いているんだろう。昨日の夜遅くに既読がついて返事が来なかったのは、誰かと話していたから? この場所、私とは行ったことない場所だけど誰と行ったの?
こういう疑問が頭の中でぐるぐると回り始めると、なかなか止まらない。相手を好きな気持ちと信じきれない気持ちが同時に存在し続ける。
これが体にどう出るかというと、スマホを開くたびに胃がきゅっと縮まる感覚があったり、一緒にいるときも常に何かを確認している自分がいたりする。恋愛しているのか捜索しているのかわからなくなってくるやつ。精神的な消耗は静かに進むから、気づいたときにはすでにかなり削られていることも多い。
裏垢相手の危険なサインを見抜く方法
フォロワーも投稿も絶対に見せない
裏垢を持っていて、恋愛において問題になりやすい人の特徴として一番わかりやすいのがこれ。SNSを見せたがらないという行動パターン。
スマホを傾けて背けたりする、フォロー・フォロワーが非公開になっている、SNS自体をやっていないと言いながら通知はやたらと来る。こういうことが重なっているとき、単純にプライバシーを大事にする人というより、意図的に何かを隠している可能性の方が高い。
付き合ってある程度の時間が経っているのに相手のSNSが見られないという状況は、冷静に考えるとやっぱりおかしい。好きな人のインスタを見たいという感覚は自然なことだし、相手もそれはわかっているはずで、それでもなお見せないということには理由がある。
「信頼しているから見せないわけじゃない」なんて言われたことがある人もいるかもしれないけど、その論理は少し変だ。信頼していれば見せられるというのが本来の感覚だと思うし、そこで逆ギレしてくる人は特に要注意だったりする。
名前・顔・職場が一切わからないまま続く
出会いがSNSだった場合、特に注意してほしいのがこのパターン。
プロフィールに名前がない、顔写真がない、居住エリアも職業も書いていない。それ自体は慎重な人ならあり得る。ただ実際に連絡を取り始めてからも「顔は見せたくない」「本名は言えない」という状態が続く場合は、話が違う。
顔も名前もわからない相手に、感情だけが先に育っていく。好意を先に形成させてから実体を確認しにくくする、という構造のリスクがある。詐欺的な目的でSNSを使う人が実在しているのは事実で、相手の素性がまったく不明な段階で信頼や感情を深めていくのはリスクが高すぎると思う。
雰囲気が良い、文章が優しい。その印象だけで実体のない相手を信じることの危うさは、ある程度経験を積むまで見えにくいんよね。
急にアカウントが消えたり変わったりする
もう一つの危険なサインが、アカウントが急に消えること、あるいは何度も作り変えた履歴があること。
バレそうになったとき、複数の相手を管理しきれなくなったとき、手っ取り早い解決策が垢ごと消して新しく作り直すことだったりする。「知り合いに疲れたから垢変えた」「ハッキングされた」という説明が出てくることもある。それが本当かどうかは他の情報と合わせて判断するしかないけど、説明がいつもスムーズすぎる人は少し警戒した方がいいと思う。
アカウントの消去や作り直しが繰り返されている人は、見られたくない過去が何度も発生していると考えておく方がいいかもしれない。
裏垢相手と付き合う前に確認すること
付き合う前に最低限確認しておくこと
裏垢の疑いがある相手と付き合うかどうか悩んでいるとき、まず試してほしいのが直接聞くこと。
「SNSって複数使ってる?」くらいの軽い聞き方でいい。そこでの反応を見る。動揺する、話をすり替える、過剰に否定するといったリアクションは、何かを隠しているときに出やすい。質問に対して即座に「なんでそんなこと聞くの?」と逆ギレする場合も、それ自体がひとつのサインだったりする。
SNS以外でも、相手のリアルの行動を観察することが参考になる。友人との関係、外出の様子、食事や旅行の投稿がどこに上がっているか。SNS上の印象と生活の実態がある程度一致しているかどうかを確認することで、見えてくるものがある。
私が今の相手と付き合う前は、実際にそれをやった。共通の友人経由で繋がっていたこともあり、SNS上の行動と周囲からの評判を合わせて確認してから付き合うことを決めた。あのひと手間があったから、今は安心して関係を続けられているんだと思っている。
自分の許容範囲を事前に決めておく
これは相手だけの話ではない。自分がどこまで許容できるかを事前に整理しておくことが、付き合い始めてからの消耗度をかなり左右する。
趣味専用の裏垢なら気にしないという人もいれば、どんな理由があっても隠していた事実が許せないという人もいる。正解はどちらにもない。ただ、自分がどのタイプかを自覚しておくかどうかで、後の対応が変わる。
感情が入ってからの理性的な判断は、想像以上にブレやすい。付き合う前に整理しておく方が、結果的に自分も相手も消耗しなくて済む場合が多い。
自分が裏垢を作りたくなるとき
その衝動が出てきたときに自覚すべきこと
自分自身が裏垢を作りたくなったことがある、という話をすると意外に思われることもある。でも実際のところ、これはわりと経験者が多い話だと思う。
恋人との関係が停滞しているとき、誰かに愚痴を吐き出したいとき、新しい刺激が欲しくてなんとなく知らない誰かと繋がりたいと思ったとき。こういう衝動が出てきたとき、それは今の関係に何かSOSが出ているサインだと思っていい。
裏垢を作ること自体より、なぜ作りたいのかという動機の方がずっと本質に近い。衝動が出てきたとき、そこを見ないようにして逃げ道だけを作るのは問題を先延ばしにしているだけで、後で必ずもっと大きくなって戻ってくる。
裏垢が恋愛関係を壊していく順番
裏垢が恋愛を終わらせるのは一瞬じゃない。少しずつ、気づかないうちに進んでいく。
最初は、ちょっと別の空間があるだけという感覚で始まる。でもその空間に新しい人間関係や感情が生まれると、現実の関係との比較が始まる。裏の世界の方が気楽で、現実の恋人との関係が重く感じられるようになる。その感覚が積み重なって、いつの間にか恋人への気持ちが薄れていく。
これが恋人側から見ると、相手がだんだん遠くなっていくように感じられる状態として現れる。何かがずれている気がするけど原因がわからない、という時間が続いて、気づいたときには修復の難しい距離ができていることが多い。
裏垢を作りたいという衝動が出てきたとき、それは今いる場所で何かに向き合うタイミングだと思う。逃げ道を作る前に、今の関係の中にある問題を先に見た方が、結局は自分も傷つかずに済む。

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